止まらない案件のための「意思決定の地図」と、残り4ヶ月の「捨てる」戦略|monotips station 第327回
意思決定者を見極めないと案件は途中で止まる。あらかわが説く「意思決定の地図」の描き方と、しばっちが提案する残り4ヶ月を乗り切るための「捨てる」戦略を扱うmonotips station第327回。

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止まらない案件のための「意思決定の地図」と、残り4ヶ月の「捨てる」戦略|monotips station 第327回
イントロダクション
monotips station 第327回、今回もあらかわとしばっちの実務ネタ2本立てです。
あらかわパートは、「キックオフで最初に確認したい、意思決定の地図を描くTIPS」。要件はきちんと詰めたはずなのに、なぜか案件が途中で止まってしまう。その原因の多くは、誰がどうやって物事を決めているのかを把握できていないことにある、というテーマです。
しばっちパートは、「足し算の罠から抜け出す、2026年の総仕上げに向けた『捨てる』戦略TIPS」。2026年も残り4ヶ月、目標未達への焦りからタスクを増やしたくなる時期だからこそ、あえて何を手放すかを考える回です。
クライアントワークで案件が止まって困った経験がある人にも、年末に向けてタスクが積み上がっている人にも、今日から使える視点をお届けします。
1. キックオフで描く「意思決定の地図」
1-1. 要件を詰めても、案件は止まる
新規案件の問い合わせが来て、打ち合わせをする。あらかわいわく、対面で会うことで読み取れる「行間」の情報量は確かに大きいものの、要件をロジカルに詰めるだけならオンラインでも書面でも成立するといいます。実際、あらかわ自身も一度も会ったことのない相手に発注することがあるそうです。
問題はそこではありません。要件は定義したはずなのに、なぜか案件が途中で止まってしまうケースがある、とあらかわは指摘します。「見積もりが通ったのでやってください」と言われたのに実は決裁が下りていなかった、担当者は「これでいきましょう」と言ったのに、別の優先順位に押されて止まってしまった。理由が分かればまだいいものの、決裁が下りたはずなのに突然止まるケースもあるといいます。
こうした事態を防ぐために大事なのが、キックオフの段階で「誰が何をどう決めていくのか」を把握しておくことです。あらかわはこれを「意思決定の地図」と呼びます。
「キックオフでは仕事の内容を聞くのと同じぐらい、この仕事はこんな順番で誰が決めているのかっていうのを聞くっていうのはすごく大事」(あらかわ)
1-2. 意思決定に関わる4種類の人物
あらかわは、案件に関わる人物を「偉いか偉くないか」ではなく、意思決定にどう関わるかで4つに分類します。
決済者
最終的にゴーサインを出し、お金を払い、いつやるかを決める人です。ここは間違いなく押さえるべきポイントですが、あらかわが強調するのは、決済者が何を一番大事にしているかまで見極める必要があるという点です。売上を優先したいのか、ブランドの見え方を大事にしたいのか、コストを抑えたいのか、とにかく早く出したいのか。この軸を取り違えると、いくら良いアウトプットを出しても評価がずれてしまいます。
面白いのは、あらかわ自身がこの話をしながら「ぶっちゃけダサくても売れる方が正義」と言った直後に、自分がスタッフの変なアウトプットには結局細かく口を出してしまうと認めていたことです。優先度で言えば売上が一番のはずが、実際には見え方も譲れない。この矛盾こそが、決済者の本音を見極める難しさをよく表しています。
推進者
日々の窓口業務を担う、決済者に指示された担当者です。ここには2パターンあるとあらかわは言います。担当者に意思はあるのに決済者に止められているパターンと、担当者の能力が追いついていないパターンです。特に後者は、サポートしようとしても「そこじゃないんだけどな」と思いながら仕事を進めることになりがちで、案件が泥沼化しやすいポイントだといいます。
影武者
意思決定者の外部にいる、デザイナーやコンサルタント、友人、顧問、時には配偶者など、決済者の判断に影響を与える存在です。こうした関係性は、信頼関係ができてこないと見えてこないことが多く、あらかわはここでもキックオフの場が重要だと語ります。途中段階のラフを、周囲の人にも見てもらえるかどうかを聞いてみるのも一つの手だといいます。
運用者
納品後、実際に注文を受けたり発送したりする人です。ECサイトの案件では特に重要になりますが、ここが曖昧なまま進んでしまい、案件が思うように回らなくなるケースも少なくないとあらかわは指摘します。
1-3. 小さな「NG」を集めて境界線を探る
意思決定者の好みは、最初から明確に言語化されているとは限りません。あらかわが挙げたのは、工場の写真を撮影した際、職人が写り込んでいるカットを提案したところ、信頼感が出て良さそうに見えたにもかかわらず「人は出すな」と全面的にNGを出されたという事例です。
こうした「なぜダメなのか」がすぐには分からない判断は、小さな提案を重ねながら少しずつ境界線を探っていくしかありません。あえて外した案をあえて混ぜて提示し、意外にもそれが採用されることもあれば、逆に明確なNGをもらうこともある。NGをもらっておくこと自体が、次に同じ失敗を避けるための情報になる、とあらかわは語ります。
「登場人物マップはやっぱり作るべきなんですよ、最初に」(あらかわ)
決済者と直接話せない案件も少なくありません。代理店やディレクター経由でしかやり取りできないケースもありますが、それでも「決済者はこう考えているはずだ」という前提をお互いに握っておくことが、後々の手戻りを減らすことにつながります。
1-4. キックオフは「誰が決めるか」まで聞く場
要点を整理すると、キックオフは要件を聞くだけの場ではありません。決済者・推進者・影武者・運用者という4種類の人物を書き出し、それぞれが何を大事にしているのかを頭の中、あるいはメモとして残しておく。これだけで、案件が途中で止まったときの原因の切り分けが格段にしやすくなります。
しばっちも、キックオフでは社長がどれくらい本気か、決裁者の考え方やコンプライアンス意識をその場の言葉や態度から見極めているといいます。会うことで得られる情報量を、単なる顔合わせで終わらせず、意思決定の構造を読み解くために使う。それが、案件を止めないための最初の一歩になりそうです。
2. 足し算の罠から抜け出す「捨てる」戦略
2-1. 残り4ヶ月、足し算に走りたくなる理由
2026年も残り4ヶ月。しばっちは、この時期になると「今年目標にしていたことがまだ終わっていない」「年末が近づいてきたのでなんとしても売上を上げなければ」と焦る事業者が増えるといいます。実際、お盆明けから9月・10月にかけては繁忙期に入る事業者も多く、しばっちの事務所も忙しくなり始めているそうです。
問題は、その焦りから「タスクを足す」方向に走りがちなことです。得意分野から外れた案件でも、売上目標のためにとりあえず受けてしまう。すると確認不足や連絡漏れ、知識不足が起きやすくなり、普段より品質の低い仕事になってしまう危険がある、としばっちは指摘します。
2-2. ランチェスター戦略に学ぶ「捨てる」発想
しばっちが最近学んでいるのが、経営戦略のひとつであるランチェスター戦略です。この戦略の柱の一つが「一点集中」、つまり自分の得意なところに絞って突破していく考え方です。一点集中するということは、裏を返せばやらないことを決める、捨てることを決めるということでもあります。
しばっちが強調するのは、この「捨てる」はサボることでもやりたくないことから逃げることでもないという点です。
「捨てるっていうのは決してサボるとかやりたくないとかそんなわけではなくて、最高の価値を提供するために、プロとしての最高の準備をするということ」(しばっち)
限られた時間とリソースをどこに集中させるかを決めるための「捨てる」であり、それによって残した仕事のクオリティを守るという発想です。
2-3. しばっちが今年捨てる3つのこと
しばっちは、2026年の残り4ヶ月に向けて、あえて手放すことを検討している3つを挙げました。
すべてのお客様を平等に扱うこと
全てのお客様に100点のサービスを提供したいと考えるのは自然なことですが、リソースが限られた小規模事業者がこれを追い求めると、かえってどのお客様にも満足を届けられなくなる危険があるとしばっちは言います。優劣をつけるという意味ではなく、案件の難易度や関係性を踏まえて、どのお客様が本当に大切なのかを整理する必要がある、という考え方です。
効率化・タイパ思考を追いかけること
忙しくなると、時短術やAI活用、効率化に目が向きがちです。しかし、そうした効率化を突き詰めていくと、お客様と雑談したり、一緒に未来の事業計画を悩んだりする時間が「無駄」に見えてきてしまう、としばっちは警鐘を鳴らします。この泥臭い時間こそがAIには代替できない差別化のポイントであり、あえてタイムパフォーマンスを追いかけない選択も必要だという主張です。
年初に立てた目標を全部達成するという目標
年初に立てた目標と、8ヶ月経った今の状況は当然ズレが生じます。無理にすべてを達成しようとすると、品質を落としてでも実行することになりかねません。しばっちは、やってみたけれど自分には向いていなかったものは潔く諦めるのも一つの方法だとしています。ただし全てを諦めるのではなく、最初から目標を少し多めに立てておき、状況に応じて取捨選択していくのがポイントです。
2-4. 「捨てる」ではなく「選ぶ」という視点
しばっちの3つの提案に対し、あらかわは「捨てる」という言葉そのものへの視点の転換を提案します。
「捨てるっていうよりも、選ぶっていう言い方をしたらいいかもしれないですよね」(あらかわ)
残り3分の1の期間で全てを諦めるのではなく、「これだけは達成する」という優先順位を明確にする言い方です。売上は達成できそうなら、年間の面談件数といった別の目標を諦めてもいい、というように、複数ある目標のうち何を残し、何を後回しにするかを決めていく発想です。目標を最初から200%で立てて結果120%を良しとするタイプもいれば、確実に達成できる100%の目標だけを積み上げるタイプもいる、と2人はスタイルの違いにも触れていました。
「捨てる」も「選ぶ」も、行き着く先は同じです。全てを平等に頑張ろうとする姿勢をいったん手放し、残り4ヶ月で本当に守りたい仕事の質と優先順位を決め直すこと。それが、しばっちが今回伝えたかったことです。
エピソードの総括
今回の学びとポイント
今回の2テーマに共通するのは、「見えない構造を先に把握する」という姿勢です。案件が止まる原因も、年末の焦りから品質が落ちる原因も、目の前の作業だけを見ていては気づけません。
押さえておきたいポイント
- キックオフでは仕事の内容だけでなく、決済者・推進者・影武者・運用者という4種類の意思決定関係者を把握する
- 決済者が何を優先するか(売上・ブランドの見え方・コスト・スピード)を早めに見極める
- 小さな提案でNGをもらうことも、次の失敗を防ぐための情報になる
- 残り4ヶ月は「足し算」ではなく、すべてのお客様への平等な対応・効率化思考・全目標達成という3つを見直す
- 「捨てる」に抵抗があるなら、「何を選ぶか」という言い方に変えてみる
あらかわ・しばっちからのメッセージ
案件を止めないことも、年末に向けて品質を守ることも、根っこにあるのは「何を優先するかを自分たちで決める」という姿勢です。がむしゃらに要件をこなし、タスクを積み増すだけでは、かえって大事なものを見失ってしまいます。
次のステップ
新しい案件のキックオフを控えている人は、決済者・推進者・影武者・運用者の4人が誰にあたるかを一度書き出してみてください。また、残り4ヶ月の目標に焦りを感じている人は、何を足すかではなく、何を選び、何を手放すかから考えてみるのがおすすめです。
monotips stationについて
monotips stationは、ビジネスの小技を紹介するWEBマガジン「monotips」から生まれたPodcastです。編集長のあらかわと副編集長のしばっちが、毎週ビジネスに役立つTIPSを紹介しています。
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